罪の声/塩田武士
京都でテーラーを営む曽根俊也。自宅で見つけた古いカセットテープを再生すると、幼いころの自分の声が。それは日本を震撼させた脅迫事件に使われた男児の声と、まったく同じものだった。一方、大日新聞の記者阿久津英士も、この未解決事件を追い始め-。圧倒的リアリティで衝撃の「真実」をとらえた傑作。(BOOKデータベースより)
物語は現実におこった「グリコ森永事件」をモチーフにフィクションでありながら当時の事件をリアルに追体験できるように進んでいく。
作中ではグリコ・森永事件のことを「ギン萬事件」として取り扱っている。
俊哉は父親の遺品の中から、当時「ギン萬事件」の犯行に使われた子供の声が入ったテープと手帳を見つける。そのテープに使われている声が自身の幼少時代の声であり、手帳に書かれているのがギン萬事件の犯行計画である事気づいた俊也は、親族が事件の関係者ではないかと考え調べ始める。
時を同じくして大日新聞の記者である阿久津は、新聞の特集記事として過去の未解決事件である「ギン萬事件」を調査することになった。
やがて、同じ事件を同じ時代に調査しはじめた俊也と阿久津が交わることになる。
ギン萬事件は1980年代に6つの食品メーカーが次々に脅迫され、無差別の殺人未遂事件に発展した事件のことを言う。
なかでも「ギンガ」は社長が誘拐され、「萬堂製菓」は青酸ソーダ入り菓子をバラまかれるなどの被害を被り、風評被害等もあいまって倒産寸前まで追い込まれる。
阿久津は取材の過程で、犯人グループが使っていた小料理屋を見つけ、証言や入手した当時の写真などによって犯人が9人である事・当時グループが2つに割れていたこと等を知る。そして、いわゆる「キツネ目の男」が二人いたのではとの推理を展開していく。
阿久津は曽根達雄という犯行グループのブレインである計画立案者をイギリスで発見し、達雄から事件のあらましを聴くことになる。
当時ギンガに勤めていた曽根達雄の父親が過激派左翼に殺害されたこと。その後左翼集団との関与があったとの誤認から曽根家を見放したギンガを憎んだ達夫が学生運動にのめり込んでいったこと。その過程で世話になった元警官の生島から犯行計画を立てることを頼まれたこと。
達雄はギンガに目をつけるが、恨みではなく仕手株によって儲ける算段を立て犯行グループとしてメンバーを9人集める。
犯行グループである「くら馬天狗」のグループは
A:青木、金田哲、金田貴、吉高、上東
B:生島、山下、谷、曽根達雄
計画は無事に達成されるが利益を追求する青木達Aグループは脅迫する企業を6社まで増やし、さらに対立することになった生島をも殺害してしまう。
達雄は恩人である生島を殺害した青木達を警察に引き渡すためにさらに計画を立てるが失敗。そのせいで複雑化した事件は迷宮入りとなってしまい、俊也の父である兄の光雄の家にノートとテープを残しイギリスへと引きこもってしまったという事だった。
達雄の証言を手に入れた阿久津は俊也を見つけ出し接触する。
事件に使われたテープには子供の声が二人使われており、一人はもちろん曽根俊也。そしてもう一人の声の主である生島の息子である聡一郎を探しだすことに成功する。
父親である生島が殺害され青木からの逃亡生活を余儀なくされる母の「千代子」・姉の「望」・「聡一郎」であったが、姉である望を殺害され母千代子を置いて逃げたこと等を告白する聡一郎。
青木がすでに死んでいること知り逃亡生活終焉に安堵する。彼の望み通り当時の事件関係者として記者会見をすることにより母親の千代子とも感動の再会をすることができた。
残っているのは曽根家の問題。
犯行に使われた俊也の声を録音したのは母親の「真由美」であった。
真由美は学生運動にも積極的に参加していた女傑であり、その中で達雄と知り合っていた。そしてその後、達雄の弟だとは知らずに俊也の父である光雄と結婚する。
ギン萬事件のさなかに達夫から事件のことを聞かされ、警察への憎しみから達雄の話に乗り俊也の声を録音し達雄に渡したとの事であった。
若さゆえの過ちであり、自信が事件に少なからず関与してしまった事や息子である俊也を巻き込む可能性があった事などを後悔していることを告白した真由美であった。
その後俊也も達雄に会いに行くことに決めたのだった。
巨大な完全犯罪・劇場型犯罪といわれた事件も突き詰めてみれば空虚な内容であり、実際のグリコ森永事件もこういった解決がされればいいのにと思わせてくれる内容になっており、事件関係者・犯罪に巻き込まれた子等の家族の苦悩なども細かく描かれている。
実際の事件をモチーフに作られている作品であり、内容描写などに細心の注意を払っている結果すこしくどい書き方になっており読むのが大変ではあるが、それを補って余りある内容であった。