新世界より/貴志祐介
1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖66町には純粋無垢な子供たちの歓声が響く。周囲を注連縄で囲まれたこの街には、外から穢れが侵入することはない。「神の力」を得るに至った人類が手にした平和。念動力の技を磨く子供たちは野心と希望に燃えていた・・・。隠された先史文明の一端を知るまでは。(上巻裏表紙より)
街の外に出てはならない。金を犯した子供たちに倫理委員会の手が伸びる。記憶を操り、危険な兆候を見せた子供を排除することで実現した見せかけの安定。外界で繁栄するグロテスクな生物の正体と、空恐ろしい伝説の真意が明らかにされる時、「神の力」が孕む底なしの暗黒が暴れ狂い出そうとしていた。(中巻裏表紙より)
夏祭りの夜に起きた大殺戮。悲鳴と嗚咽に包まれた町をあとにして、選ばれしものは目的の地へと急ぐ。それが何よりも残酷であろうとも、真実に近づくために。流血で塗り固められた大地の上でもなお、人類は生き抜かなければならない。(下巻裏表紙より)
ストーリーと話の構成がすばらしくかなりの長編作品だが問題なく読み切れる作品。
今から1000年後の日本は人間が「呪力」と呼ばれる力を使える世の中で、「バケネズミ」という知的生物を使役して平和に暮らしている。
しかし語り部である主人公が語られざる歴史を知ってしまうところから話がこんころと転がりだす。
転がりだすまでは1000年後の世界の日常や風景描写などがなかなか細かく書かれており結構疲れるうえに、なぜかわざわざ常用漢字でない漢字をあててあるおかげでなかなか読み進めるのがしんどい。
が、ここを読み切ってさえしまえば後は「呪力」「バケネズミ」「コロニー」「悪鬼」「業魔」「語られざる歴史」など流れるようにストーリーが展開していく。
最終的には一応ハッピーエンドなのだがなんともいえない後味の悪い感覚と問題提起を残して終わるというSFらしい終わり方。
結論としては「バケネズミ」として使役されている生物は現在の人類の将来の姿であり、呪力という能力を開花し現在の人類から進化した新人類が物語の主人公たちということであった。
物語の最後に「我々は人間だ!!」と主張するバケネズミであるスクィーラの発言は的を射たものであり、現代の人類である読者は新人類である主人公たちに感情移入しながら物語を読み進めていたのが、最後の最後で本来感情移入すべきはバケネズミの側であったという事実を突きつけられる結果になる。